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書籍『ティール組織』は、海外では5年前に発売されて、フレデリック・ラルーという著者が宣伝なしで、自費出版で売りはじまり、口コミで広がっていった結果、50万部売れています。日本では2018年1月に発売されて、出版社からのプロモーションが少しありましたが、それでも約8万部の販売という凄い勢いで、著者のフレデリック・ラルーも日本では何が起こっているんだという感じで関心を示していただいています。

一方で、2年間で広がったことは良いことだけではなく、表層的な理解がワーッと広がってしまうというマイナスなことも起こっています。残念ながらフレデリック・ラルーが本当に言っていることではなく、”ティール組織と名乗った組織”をメディアが取材し、発信をしてしまっているので、フレデリック・ラルーが言っているティール組織論といま日本に伝わっている”ティール組織”で、乖離が生まれつつあります。フレデリック・ラルーが伝えている本質的なティール組織をできる限り、ぜひ知ってもらいたいと思います。

著者フレデリック・ラルーとティールの出会い

フレデリック・ラルーは、ベルギー人で今はニューヨークから6時間ぐらいかけたところにあるイサカビレッジというエコビレッジに住んでいます。 面白い話で、彼にメールを送ると確実に自動返信メールで届きます。そして、こんなことが書いてあります。

「いまは、家族を大事にしたいフェーズで、ティール組織が売れてしまっていっぱいメールがくるけれども、それに関しては世界中に仲間がいるから彼らに学んでくれ。1週間返事がなかったら、ノーだと思ってください。」

フレデリック・ラルー

元々はマッキンゼーのコンサルタントで、経済界で凄く活躍されていました。そんな彼がある時、「お金を持っている人たちがさらにお金を生み出すことに、自分の大事な人生の時間を使ってていいんだろうか?」と、疑問を持ちはじめ、それがきっかけでマッキンゼーから独立する道を選んだそうです。

そんな中、はじめはコーチングを学んで、コーチとして活躍していました。ただ、大きな組織の中で一人ひとりをコーチングでケアして元気にしていっても、また潰れていく人もいますし、このまま続けても社会全体が良くなっていくには程通いということを感じるようになり、組織や社長向けのコーチングなどをするようになりました。それと同時に、世の中の社長はことごとく幸せそうじゃないと感じ始めたそうです。

社長は、何か物事を形作ったり、多くの人を統率している人なので、掘って掘っていくと凄く思いが強くてビジョナリーで社会貢献意識が高いのですが、フレデリックと会う頃にはもう何か疲れきっていて、そして、口からべき論がでてきます。「株主がこう言っているから」「従業員が動かなくて」と。

同時に従業員のほうに目を移すと、いろんなサーベイやアンケートを見ていくと、実際に働く人々もやりがいを持って働けていないという現状。

トップも幸せじゃないし、働く人も幸せじゃない。両方とも幸せじゃないこの経済社会に違和感を感じたことが、フレデリックの旅のスタートポイントだったのです。そして、この両方とも幸せではなかったり、何か壊れかけていたりなど、行き詰まっている経済社会に次に一歩を見出したいというところがエネルギーの原点でした。

そのときは、フレデリックは仮説があったわけでもなく、組織論で別にお金を稼ぎたいと思っていませんでした。ただ、その疑問を解決したいという思いで、彼はありとあらゆる文献をあさっていきました。心理学、脳科学、組織論だけではなく、医療、福祉、政治、金融。さまざまな分野の歴史を調べていくと、時代ごとに人間の世界観がガラッと変わる機会と同時に、それによって世の中の仕組みが政治にしても、農業にしても、医療にしてもガラッと変わるということがわかってきました。

そして、いままさにそういう新しい変化がありとあらゆる分野で起こりはじめていると。そうしたら、組織論もその変化の中で新しい姿が見えてくるんじゃないだろうかと気付き、そこで浮かび上がったのがティール組織です。

世界の変化の歴史とティールの誕生

人類の初めての世界観の変化は、狩猟採集民族が農耕民族になり、農業をはじめ、定住化したときが、大きな世界の変化だったと言われています。

この世界の変化において一番わかりやすい変化は教育です。狩猟採集民族のときは、子どもたちは自由に遊びまわっている中で、勝手にお互いに成長していっていました。それが定住化して農耕をすると子どもたちにも働いてもらわないといけなくなりました。しかし、子どもは労働力としては未熟な存在なので、きちっとしつけをしないといけません。こういった形で教育の原型が生まれてきたのがこの時代です。この時代は、自然というものは頑張ればコントロールできるかもしれないという価値観で動いていました。そのため、前の時代には森に生息する植物を自由にとって食べていましたが、種を一斉に植えて水をやったらいっぱい収穫することができ、コントロールができると。また、子どもっていうのは未熟な存在として何かしつければ成長することができると。そして、人が人をコントロールしはじめました。

仕組みをつくれば、人を支配できるという階層構造を使った組織の原型をつくっていったのがこの時代です。

次に大きな変化が起こったのが、産業革命、情報革命です。私たちは、能力の向上の場を「腕を磨く」といいますが、”磨く”という言葉は機械の考え方を人間に当てはめたものです。次の時代に行くとき、村と村が出会い、国と国と出会い、組織と組織が出会い競争がはじまっていき、より成長スピードが求められてきて、いわゆる科学が発展していきます。「ものさし」で計って、それによって改善しながら磨いていくことが主流の時代になりました。教育で言うと、私たちは当たり前のように思っていますが、同じ学年の人たちが一斉に学校に入学して、そして同じ学年の人たちが卒業していくっていうのは、まさにインプットとアウトプットです。また、企業でも評価システムを導入して、人というものをものさしで評価して、そして報酬をつけて統率しています。この時代には、インプット、アウトプット、ものさしという考え方で物事が進んでいっていました。

そんな中、今、あらゆる分野で新しい物事の捉え方、仕組みが生まれ始めようとしているのです。

教育で言うと、ESBZという学校では、朝8時30分に子どもたちが学校に来て、英語の部屋と、ドイツ語の部屋と、歴史の部屋と、数学の部屋があるのですが、子どもたちがその日の気分で選びます。毎朝ドイツ語に行っている子どもいれば、バランス良くドイツ語、英語、数学とかって行っている子もいます。そういう形で自己決定していっています。午後は、プロジェクトベースドラーニングと呼ばれるカリキュラムで、自分たちでチームを作り、何かプロジェクトを立ち上げて、そこから学びを得るというものです。一斉授業はほとんどありません。そして、卒業時には、ベルリン全体の平均よりも上の成績になって卒業していっています。

更に先進的な学校では、そもそも8時30分に学校に来るっていうこと自体、もう強制じゃない学校もあります。また、先生を面談するのは校長や先生がする学校がこれまで一般的でしたが、進んでいる学校では子どもたちが自ら先生を面談するというところまでやっているそうです。また、複数の学年が一緒に学んでいます。細分化して専門性を高めるという教育から、混ぜこぜで境界線がない中で自分たちで決めていくという教育になってきています。

医療では、今のパラダイムだと病気とか怪我は物理的な肉体の欠陥として扱われます。それに対して治療をしたり、薬を入れて治していきます。

ティールのパラダイムになると、病気は人間関係とか、その人の置かれている環境とか、そういったものがトータルに病気として表れているというふうに考えます。いろんな観点から物理的な治療以外にも行うホリスティックな医療が生まれてきています。

また、農業に視点を当てると、今のパラダイムだとトラクターが通りやすいように畝を作って、キャベツ畑、かぼちゃ畑、トウモロコシ畑に分けて、品種改良をして、肥料を投入して、農薬まいてと、大量生産が実現してきました。ティールのパラダイムでは、パーマカルチャーとか、自然農とか、協生農法と言われるような手法が取られるようになりました。例えば、今までバラバラだった野菜を虫を寄せ付けにくい野菜や栄養を固定しやすい野菜、場を殺菌する野菜などそれらを一緒に植えています。そうすると、農薬、肥料がなくても育っていくようになります。場合によっては、2か月ぐらい農家が放置していても何の問題もなく収穫することができます。そしてなにより、作物自体のエネルギーが高いにも関わらず、農薬も肥料も使っていので、健康で美味しいっていう農業が生まれてきています。

事例で上げたような、混ぜこぜで一人ひとりの生命力が強く、新しい生命体、生態系のような仕組みが、農業でも、医療でも、政治でも、教育でも生まれてきているとするならば、組織もこういう機械論的な組織から生命体のような組織があるのではという仮説がフレデリックの中に生まれてきたのです。

そういうときにフレデリックは、何かしらエクストラオーディナリーな変わった組織を教えてほしい、今までの固定観念を打ち砕くような変わった組織を教えてほしいと世界中の仲間にたずねました。一人ひとりが凄く輝いて働き、お客さまからも圧倒的な支持を得ていて、そして場合によってはGoogleよりも高い給料をもらっているようなそんな組織がA社、B社、C社、D社とあるんです。しかも、そのA社、B社、C社、D社はお互いの存在を全く知らない上に、一緒のものを勉強して進んできたわけではないのに極めて似ていたのです。

新しく生まれている組織の方向性をまとめたものが”ティール組織”なのです。

関連イベント

2020年2月12日

Bright at Work 〜自分らしく生きる・働く『ティール組織』〜 https://bright-at.work/eventreport20180220/

※本記事は、上記イベントでの登壇内容を記事化しています。

関連サービス

自社の強みを可視化し、対話を促すことで「自社らしい進化」を支援するツール
Team Journey Supporter

「ティール組織を目指すよりも、一人ひとりの思いに合った進化が大切」という『ティール組織』著者フレデリック・ラルーの考え方とティール組織の理論に基づき、約50項目の「組織の強み」から自社の強み可視化します。更に、レポート結果を元に対話を促すことで、自社らしい自律的な組織進化を支援します。

登壇者プロフィール

嘉村 賢州

  • 場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
  • 東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
  • 「ティール組織(英治出版)」解説者
  • コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
  • 京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長

集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。

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