ワーケーションという新しい働き…
企業のWebメディア構築からデジタルマーケティング支援事業までを行う、株式会社ガイアックスのデジタルコミュニケーション事業部では、主力メンバーの介護離職という状況を経験し、それをきっかけに事業部による“働き方改革”に挑戦しているとのこと。
今回は、その“部署独自の働き方改革”を推進している部長の福永周太郎さんに、くわしくお話を伺います。
きっかけはメンバーの介護離職 復帰してもらえる方法を模索した
――現在、事業部内で働き方の大きな改革を進められていると伺いました。まずは、取り組みを始めたきっかけを教えていただけますか?
2016年2月に、当時、副部長の方が離職されたことがきっかけです。ご家庭の事情が抜き差しならない状況となり、仕事との両立ができなくなったからという理由で、いわゆる介護離職でした。
彼が離職しなくて済む方法を模索して、介護休業申請など勧めたのですが、最終的には「部署のみんなに迷惑を掛けてしまうから」ということで離職をされました。
――主力メンバーの離職を引き止めることができなかったと。その後どうなったのでしょうか?
副部長が急にいなくなったので本当に大変でした。私たちの部署は、メンバーの9割が専門的な技術者です。私は営業職出身ということもあり、技術職メンバーにいろいろと負担を強いることになってしまいました。
――具体的には、どのような状況だったのでしょうか?
通常業務については、チームリーダーに活躍していただき、大きく支障はありませんでした。ただ、副部長には、開発プロジェクトでなにかアクシデントが起きた際の助っ人的な役割をお願いしていたので、いないとなると命綱のないような不安感がありました。
また、3か月に1回、業務評価をするタイミングがあるのですが、その際の私からの技術職メンバーへの評価、フィードバックに対する不満が出てきました。理由は、技術職の方の取り組みや成果を評価する知識や経験が、私にはなかったからです。
――どうやって、その状況を改善されたのでしょうか?
技術職マネージャーの採用活動を行い、何名か面談させて頂きましたが、なかなかこちらのニーズと会う方と巡り合えない状況が続いていました。
そのような状況のなか、システム開発職の女性が新婚旅行にいくこととなり、その間、仕事の事に気を使わないで済むように、代わりの技術者が誰かいないかと探したところ、元副部長の耳にも入ったようで、介護をしながらでも働ける時間帯もあると連絡をもらいました。こちらとしては、ぜひにと一時的なヘルプとしてテレワークという形でお願いしました。
その後、都合のつく時に、可能な業務だけとお願いしたところ、順調に業務をこなされていたので、10月頃に改めて状況を聞いてみると、家庭の事情も落ち着いてきたと。これは戻ってきてもらえる可能性があるなと思ったんです。
――そこから“働き方改革”につながったのですか?
組織がこれまで通りでは、彼が「まわりに迷惑を掛けてしまう」と感じる状況に変わりないので、“働き方改革”と銘打って、テレワークの推進を含む組織の制度変更を始めました。
その上で、改めて「復帰してもらえませんか?」という話をして、翌年1月から復帰していただけることになりました。
介護離職は他人事ではない 「ここで何かやらないと」と思った
――ひとつのきっかけから、組織の働き方全体を改革するに至ったんですね。
副部長と私は同い年でしたので、介護離職を目の当たりにして、かなり衝撃を受けました。これは他人事じゃないと。私自身、幸いに両親が健在ですが、何かあれば自分だっていつ関西に戻るかわからないので、離職という副部長の選択についても理解できましたし、避けられないことだなと思って、自分のことのように悩みました。
――介護離職の問題が、一気に身近なものになったということですね。
若いメンバーが多い会社なので、40オーバーというのはこの会社では少数派です。なので、介護の問題を意識している人はほぼいないと思うんですね。
ほとんどのメンバーにとってはまだまだ先の話ですが、先達として「ここで何かやらないと」と思いました。
同じ職務のチームを作り、裁量労働をフル活用する“働き方改革”
――“働き方改革”として、具体的にどんなことを行ったか教えていただけますか?
私たちの部署は、Webサイト開発の部署であり、裁量労働制を導入していました。その働き方について、改めて自分たちで見直し、徹底しようと取り組みました。デザイナーのチーム、エンジニアのチーム……という形で、職務が同じ人をチームにして、このチーム単位で自分たちが求める働き方に改善できる制度にしました。
メンバー内でフォローし合えていれば、もし急な家庭の事情で出社ができなくても、他のメンバーに対応してもらえるという安心感が生み出せると考えています。また、チームとしての団結や、メンバー同士の信頼、感謝の念があってこそ、裁量労働もテレワークも上手くいくと考えたんです。
このような体制や制度を、オフィス移転のタイミングに合わせて2017年1月にスタートしました。
――チームとしての団結や信頼を強くするためにしていることはありますか?
チームの一人ひとりに「自分がどうしたいか」を、きちんと表明してもらうようにしています。その上で、全員の課題が叶えられるチームの目標を設定してもらいます。
また、チーム目標を業務目標とリンクさせないようにもしていますね。「やらされている」と少しでも感じると、メンバーの主体性を奪ってしまうからです。
テレワークを取り入れるために、制度や体制の見直しが必要だった
――今回の改革は、テレワークを取り入れるためにベースとなる体制を作ったということでしょうか?
その通りです。裁量労働制とチーム主体の組織運営がベースにあって、テレワークはその延長にあるという形ですね。
ただ、私たちが踏み出せる環境は、会社がすでに用意してくれていました。ガイアックスでは、「フリー・フラット・オープン」という社風を大事にしており、社員一人一人が、自由度を高くもって枠を越えた協働をすることを推奨しています。また、移転した永田町GRIDでは、外部の企業様にシェアオフィスの提供を開始しており、リモートワーク、テレワークの働き方を、すでに実施して結果を出している他部署もありました。
――他部署の取り組みを参考にされたのでしょうか?
昨年、すでに実施をしている事業部長にヒヤリングを行い、「これはぜひ取り組むべきだ」と確信しました。ただ、そのまま同じことをするのではなく、部署毎の特性を生かした組織体制、制度、タイミングもあると考えさせられました。
――テレワークで働くメンバーは今後増やしていくのですか?
はい。まずは業務のプロセスを考慮し、システムエンジニア、プログラマーなどの技術職からスタートします。彼らにとっては、集中できる環境が大切です。
自宅で働くテレワークで生産性が上がる人がいるのであれば、そういう選択肢があった方がいいだろうと考えています。
逆に、例えば小さいお子さんがいて、家では集中できないという方は出社した方がいいでしょうし、テレワークを使うかどうかは人それぞれ判断してもらえればと考えています。
――他の技術職の方にも広げていく予定はありますか?
半年ほど運用してみて、上手くいけばデザイナーやコンサルタントなど他の専門職にも拡大していく予定です。技術職の方も、まずはチームの中でテレワークの曜日を決めてもらい、週1でスタートしていきます。今後、それを、週2~3と増やすことを可能にしたいと考えています。
人や職種によっての向き不向きもあると思うので、そのあたりもチームとしてのアウトプットを踏まえて判断していきます。
――テレワークを行うために導入したツールはありますか?
私たちの部署では、「iQube」というグループウェアを4000社ほどに提供しており、今年よりビデオ会議サービスも提供を予定しています。
また、テレワークでは、働き過ぎの心配があると、先行する部署からアドバイスをもらいましたので、グループ会社の電縁が提供しているプロジェクト管理・工数管理 ツール「InnoPM」を使って勤怠、業務活動の記録、管理を行っています。このツールでは、管理だけでなく、業務分析が提供されていますのでテレワークでも業務改善ができるとわかりました。ですので、特に新しいものは導入せず、自分たちが提供するものを活用するという形で行いました。
働き方を“変えてもいいし、変えなくてもいい”という自由
――新しい働き方の制度を導入してみて、どんな変化がありましたか?
今回、部署全体で共有する勤怠報告を廃止して、チーム内だけで共有するようにしました。それまで朝「すみません、体調が悪いので〇時に出社します」みたいな連絡が、代わる代わる来ていたんです。
朝から「すみません」ばっかり見て、あまりいい気分にはなりませんよね。みんな頑張っているのはわかっていますから、こちらが申し訳なく感じていました。勤怠について謝罪は不要なので、万が一チームのメンバーに迷惑を掛けた時だけ謝ってくださいと伝えたら、それがぴたっと止まりました。
――それだけでずいぶん雰囲気が良くなりそうです。逆に、新しい働き方にネガティブな反応はありませんでしたか?
組織の制度が変わること自体に対して、ネガティブな人は一定数いました。「現状で満足しているので変える必要がない」という反応だったのですが、そういう人たちには、納得してもらえるように説明しましたね。変化するということは、組織の人数が多くなればなるほど、考えなければならないと感じました。
まだ新しい制度をスタートさせたばかりなので、もしこれから働き方そのものに不満や問題が出てきたら解決していきたいと考えています。
――新しい働き方がスタートして、ご自身の働き方にはどういった変化がありましたか?
私自身は一切変わっていないです。それも裁量だと思っていて、働き方が自由になったとしても各々スタイルがあるので、朝8時に来る人たちはやっぱり来ています。私も家を出る時間を決めているので、それを変える方が逆に生活リズムが狂ってしまう。
働き方を変えたくない人はそのままでいいし、これまでのスタイルが合わなかった人は、気兼ねなく自分のスタイルに合わせて変えてもらえればと思っています。
柔軟な働き方を推進していくことで、仲間を増やしていきたい
――“働き方改革”を推進していって、今後どうなっていたら理想だと考えていますか?
3年後には、今の5倍くらいの人数になっていたいですね。
今いるメンバーにとって、働きやすく離職されにくい環境を作るのもひとつですが、こういった柔軟な働き方に共感する人に来てもらえることも期待していますし、育児や介護などのような事情のある人の受け皿にもなりたいと思っています。そうやって、仲間を増やしていけるというのが理想ですね。
――もし “働き方改革”を実施していなかったとしたら、将来的にどんな違いが生まれただろうと考えますか?
この組織が変わるきっかけがなかったと思います。事業成長の面で、これまでも一定の結果を出してはいるのですが、ずっと同じことをしていても急に伸びることはないですから。
なので、働き方を大きく変えることで、事業としても成長するかどうかが決まってくるのではないかなと。私としてはこの働き方改革の後に、事業としてもしっかり結果を出さなければならないと考えています。
――働き方改革について考えている他の企業の方に、何か伝えたいことはありますか?
すでに大企業では事業課題として認識し、様々な取り組みをされていると思います。これから検討をはじめられる企業の方には、「備えあれば憂いなし」でしょうか。育児休業の場合、ある程度事前に準備することができますが、介護の問題となると、突然やってきます。メンバーがそういった問題に直面する前から、事前にセーフティネットを用意しておくに越したことはない、とお伝えたいですね。
参考URL
取材協力:株式会社ガイアックス デジタルコミュニケーション事業部
事業部長 福永 周太郎
オウンドメディアマーケティング支援サービス事業。
Webメディアの開発、オウンドメディアクラウドサービス提供、Webサイト改善コンサルティングを提供。
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